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こんにちは、辻本デンタルオフィス院長の辻本です。今日はMTAセメントのはなし
この材料は1990代初頭にアメリカのロマリンダ大学で開発された歯内療法材料です(根の治療、神経を保存する治療で使用する材料)。
日本では2008年くらいに発売されており、元々はデンツプライシロナ社のProROOTMTAという製品のみでしたが、そこからさまざまな会社が同様の製品を市場に投入し、今現在日本でも多数の商品があります。
私は長崎大学大学院でこの材料の研究もしていました。
この記事の対象読者
- 歯科医院で MTA(Mineral Trioxide Aggregate)セメントを用いた治療を勧められた患者さん
- MTA セメントとは何か、従来の材料とどう違うのかを知りたい方
- 治療後に「こんなはずじゃなかった」と後悔したくない方
1. MTA セメントってなに?
MTA セメント | 従来の水酸化カルシウム系材料 | |
---|---|---|
主成分 | ケイ酸カルシウム(ポルトランドセメント系)+ビスマス酸化物 | 水酸化カルシウム |
硬化機序 | 水和反応(生体内で硬化) | 飽和溶液形成 |
封鎖性 | 高い(マイクロリーケージが少ない) | 中〜低 |
生体親和性 | 高い(歯髄・骨に対して良好) | 中 |
色調変化 | 変色リスクあり(改良型で軽減) | ほぼなし |
費用 | 比較的高価 | 安価 |
ポイント
- MTA は生体親和性が高く、MTA自体の封鎖性が高いため、歯髄保存療法や根尖部外科でゴールドスタンダードに近い存在。
- ただし操作性が独特で硬化に時間がかかり、治療費が高くなるケースが多い。
2. どんな治療で使われる?
2‑1. 歯髄保存療法(直接覆髄、部分断髄)
神経を残したまま虫歯を除去し、露出部に MTA を置いて封鎖する方法。成功すると根管治療を回避できる。
2‑2. パーフォレーションリペア(穿孔封鎖)
根管治療中に穿孔(穴が開いた状態)した部位を MTA で封鎖。従来材料より成功率が高い。
2‑3. 根尖逆根充(外科的歯内療法)
歯根の先端を切除した後、切断面に MTA を逆根充材として詰める。
2‑4. 歯根吸収の補修
外部吸収(歯の一部が溶けて穴が開いた状態)に MTA を充填して骨や歯根の再生を促す試み。
3. メリットとデメリットを整理しよう
メリット
- 高い封鎖性 ─ 感染の再侵入を防ぎやすい。
- 生体親和性 ─ 歯髄・骨組織の修復を促す。
- 耐湿性 ─ 湿潤環境でも硬化が阻害されにくい。
- 長期的な成功率 ─ 論文でも良好な報告が多数。
デメリット
- 治療費は自費治療 ─保険適応ではなく、材料費が高いことや、技術的に研鑽が必要 。
- 変色リスク ─ 前歯部では審美面の配慮が必要(材料による)。
- 操作が難しい ─ 器材・手技に習熟した術者でないと失敗リスク(専門性大事)。
- 硬化時間が長い ─ 一時的に仮封が必要な場合も。
4. 後悔しないためのチェックリスト
□ 術者の経験と実績を確認
- MTA を年間どのくらい用いているか?
- 学会発表・論文投稿などの実績は?
□ 治療計画の具体性
- MTA を使う理由は?
- 成功率とリスク、副作用の説明は?
□ 費用
- 材料費を含む総額はいくら?
□ 審美面の配慮
- 前歯の場合、変色対策(ホワイト MTA、バイオセラミック等)は?
5. よくある質問(FAQ)
Q1. 保険は適用される?
A. 日本の健康保険では多くの場合、MTA 使用料は自費扱い。
Q2. 金属アレルギーがあっても大丈夫?
A. MTA は金属イオン溶出がほぼないためアレルギー報告は極めて少ない。
Q3. 治療当日は痛い?
A. 局所麻酔下で行うため処置中の痛みは少ない。術後に鈍痛や違和感が出ることがあるが、多くは数日で軽快。
Q4. 他院で失敗したケースでも再治療できる?
A. 条件による。
6. まとめ 〜後悔しないために〜
- MTA は優秀だが万能ではない。 治療目的と代替手段を理解しよう。
- 術者のスキルが結果を左右する。 実績と説明の丁寧さを重視。
- 費用・審美・長期予後を比較。 前歯部や予算に応じた選択を。
- 疑問は遠慮なく質問。 不安を解消してから治療に臨もう。
当院の治療では良く使う材料であり、非常に良い材料ですが、術者の知識、技術、ラバーダム防湿をちゃんとしているか、歯髄保存等MTAセメントを使用した後の治療、歯の詰め物や、被せ物の精度が良いかなど
MTAセメントを使用するときの環境、その後の処置が非常に重要になります。
MTAセメントをしようする治療を提案されたら、これらの事を考えて治療を受けましょう。
辻本デンタルオフィス 辻本真規
執筆者情報

院長/歯科医師・博士(歯学)
【略歴】
- 2008年
- 日本大学松戸歯学部卒業 日本大学松戸歯学部附属病院 研修医
- 2009年
- 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
齲蝕学分野入学 - 2009年~2013年
- 開業医勤務
- 2013年
- 日本顕微鏡歯科学会 認定医取得
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科修了
博士(歯学)取得 - 2013年~2018年
- 長崎大学大学院
医歯薬学総合研究科齲蝕学分野助教 - 2016年~
- 日本顕微鏡歯科学会代議員
- 2017年
- 日本顕微鏡歯科学会認定指導医取得
デンツプライシロナ エンド公認インストラクター - 2018年
- 辻󠄀本デンタルオフィス開業
【受賞歴】
- 2015年
- 日本歯内療法学会関東甲信越静支部 第9回ウィンターセミナー鈴木賢策賞受賞
第12回日本顕微鏡歯科学会学術大会 大会長賞受賞
開業歯科クリニックでの勤務や大学での研究を経て、
長崎大学の齲蝕学分野助教となり、根管治療の難症例などの治療にあたる。
2018年に「辻󠄀本デンタルオフィス」を開業。
マイクロスコープを用いた精密な根管治療を得意とし、難症例にも多く対応している。
歯科医師向けの様々なセミナーの講師を務めるほか、歯科関連の雑誌や書籍の執筆等精力的に取り組んでいる。
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